熊野関係古籍    熊野古道

一遍上人絵伝   


 鎌倉時代の作で、時宗の開祖一遍上人の生涯と教えを48の場面に分けて12巻の絵巻にしている。この時代の庶民の風俗や寺院の姿を知ることが出来る。大和絵の伝統をふまえた絵は天台の僧円伊により描かれている。

 本宮大社で阿弥陀如来の化身であるとされた熊野権現から神託を得る所が書かれているのが第九段である。
 

 一遍上人絵伝第三(第九段)                           「日高郡誌」より       

文永十一年(1274)のなつ、高野山を過て熊野へ参詣し給ふ。山海千重の雲路をしのぎて、岩田河のながれに衣の袖をすゝぎ、王子数所の礼拝をいたして、発心門のみぎはに、こゝろのとざしをひらき給。藤代岩代の叢祠には、垂跡の露、たまをみがき、本宮新宮の社壇には、和光の月かゞみをかけたり。古栢老松のかげたゝへたる殷水のなみ声をゆづり、錦黴玉皇のかざりをそへたる巫山の雲、いろをうつす。就中、登遺の釈迦は、降魔の明王とともに東にいで、来迎の弥陀は引接の薩捶をともなひて、にしにあらはれ給へり、こゝに一人の僧あり、聖すゝめての給はく、「一念の信をおこして南無阿弥陀仏ととなへて、このふだをうけ給べし」と、僧云、「いま一念の信心おこり待らず、うけば妄語なるべし」とてうけず。ひじりの給はく、「仏教を信ずる心おはしまさずや、などかうけ給はざるべき」僧□、「経教をうたがはずといえども、信心おこらざる事は、ちからをよばざる事なり」と。時にそこばくの道者あつまり。(後略)



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